2006年02月24日

徴兵制をめぐる議論

ことの発端は、ピアニスト Mr. Melvyn Tan の帰省でした。

タン氏は、10代の頃に音楽を勉強するためロンドンのロイヤル・アカデミーに留学。
そのままイギリスの国籍をとり、去年の末まで一度もシンガポールの地に足を踏み入れたことがありませんでした。
かつてはロンドンまで会いに来てくれていた両親も年老いて、長距離の旅行は無理になっています。
気になるし、顔を見せてあげたくて、約30年ぶりに意を決して祖国に帰ってきたのです。

一体なぜ、そんなに長らくシンガポールに一度も帰ってこなかったのか?
それは、シンガポール人男性が必ず果たさなければならない、徴兵の義務を放棄していたため、どのような罰を受けることになるのか、恐ろしくて帰れなかったというのです。

3000シンガポールドル (1シンガポールドル=約65円) の罰金を払うようにお咎めを受けただけで済み、音楽業界に彼の能力を活かすことが期待され、ピアノコンテストの審査員としての依頼があったり、コンサートが計画されたりしました。
ところが、刑罰が軽すぎるということ、国民として果たすべき義務を無視していたような人物を英雄扱いすることに対して、大きな反発が起きてしまいます。

世論としては、男女でかなりの違いがあったようす。
一般的に、女性はタン氏に対して寛容であり、
「せっかくの才能ある人物なのだから、シンガポール国民としては歓迎してあげたい。」
「長年祖国に帰れなかった事情を考えると、十分罪は償われているのでは?」

などという意見が見られました。

一方、男性の意見は
「国の義務を無視しておいてこんな軽い刑で済むのでは、自分のことを犠牲にして国に尽くしてきた俺たちは、割に合わない。」
「こんなことで済むとなると、これから徴兵に応じない者が増えるばかり。」

ということで、怒りが強く感じられました。

騒ぎが大きくなり、国は早速徴兵に応じなかったものに対する規則を再検討し、新たな法案が可決されそう。
・罰金の金額が大きくなり(最大額として、1万シンガポールドル)、拘置刑も。
・13歳以上の男性が海外に3ヶ月以上出かける場合(従来、16歳半以上だった)、防衛庁の許可証を求めなければいけない。


この小さな国を支えていくには、国民の強い意識と参加が必要だということはよくわかります。
でも、徴兵制というのは、なかなかに大変なものだと思います。
ちょうど、将来に向けての勉強を一通り終えるか終えないか、いざこれからというときに、それまでの蓄積を丸っきり置き去りにして、全然関係のない世界で数年を過ごさなければならないわけです。

シンガポール国内で勉強しているものにとっても、いきなり「軍」の世界で暮らし始めることも、それを終えてもとの生活に戻っていくこともなかなか困難ではないかと思うけれど、海外で何らかの勉強をしていた者にとっては、
「あと、数ヶ月この国に滞在し続けることさえできれば、次のステップにすすむ手順がとれるのに!」
「就労ビザがとれるまで、あと一歩!」
というところであったりして、そこで一旦シンガポールに戻らざるを得ないとすると、あとでやり直すには随分と不利になることも大いにあるでしょう。

また、徴兵で2,3年俗世間を離れて暮らしている間に、それまで仲良くしていたカップルが別れることも多々あるようです。
そうでしょうね〜。 
遠距離恋愛と同じかそれ以上に障害がありそう。
同じく徴兵制度のある台湾で、10年も昔に自分が徴兵制度で留守にしていた間に、彼女に別れを切り出されたショックを、まるで昨日の失恋話のように延々と聞かされ、
「こんなにも恨みつらみが残るものなのか・・・」
と、びっくりしたことが思い出されます。

けれど・・・結局のところ、個人の自由や可能性よりも国を優先させなければならないのですよね。

タン氏は、自分がこのような大きな騒ぎをひきおこしたことに困惑し、
「これ以上、シンガポール国民の感情を逆撫でしたくないので」
予定されていたコンサートなど、全てキャンセルされました。

posted by M at 00:00| シンガポール ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | ローカル新聞より | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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